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借家人賠償責任補償特約とは:2つの民法が規定する損害賠償責任の違い

FPハム子です。
今回は、火災保険の特約である『借家人賠償責任補償特約*1』についてご説明します。

 

賃貸物件に住んでいる場合、建物の保険は貸主である大家さんが契約していますので、借主である入居者は自分の家財に対してのみ火災保険をかけます。
その際に管理会社から「借家人賠償責任の特約を保険金額○千万で付けてください」と言われることが多いです。

 

大家さんが自分で契約している火災保険があるのに、なぜ入居者も建物に対して補償を付ける必要があるのか?
賠償責任のための補償なら『個人賠償責任補償特約』があるから、それでカバーできるのでは?

 

こういった疑問が解消できるよう、借家人賠償責任補償の内容や個人賠償責任補償との違いなどを説明していきます。
なお、本記事では貸主=大家さん、借主=入居者とします。

 

 

借家人賠償責任補償特約とは

入居者が大家さんから借りて住んでいる賃貸物件に対して損害を与えてしまったとき、下記の①または②の補償を受けられる特約です。
これらの補償によって、入居者は大家さんに対して負う『損害賠償責任』や『賃貸契約上の原状回復義務』を果たすことができます。

 

①賠償責任保険金

法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害に対して支払われる保険金です。
代表的な事故として、入居者が起こしてしまう火災があります。

 

ここで、大家さんは自分で契約している火災保険があるのに、なぜ入居者が賠償責任を負うのか?という疑問が発生します。
失火責任法という法律によれば、もらい火の被害は相手の火災保険で補償してもらえないから、そのために自分で火災保険に加入するのでは?という疑問もあるでしょう。

これは、損害賠償を規定する2つの民法があることに関係します。

 

民法上の損害賠償責任と失火責任法

ここで、民法第709条第415条の2つの違いと失火責任法について説明します。

 

民法第709条では、故意または過失により他人に損害を与えた場合、損害賠償責任を負うことを規定しています。
しかし、この民法第709条の損害賠償責任は、失火責任法上では適用除外となります。
そのため、賃貸アパートで火事を起こし『隣人の私物の家財』を燃やしてしまっても、隣人に対する損害賠償責任は発生しません。(重大な過失がある場合は賠償責任が発生します)
賃貸の入居者が各自で火災保険に加入する理由は、このようなもらい火に備えるためでもあります。

 

一方で、民法第415条で規定されている損害賠償責任は、失火責任法上適用除外となりません。
民法第415条では、債務不履行による損害賠償責任を規定しています。
入居の際に取り交わす賃貸借契約に含まれている『原状回復義務』が火事によって果たせなくなることが『債務不履行』に該当し、損害賠償責任が発生するのです。


そのため、賃貸アパートで火事を起こし『借りている部屋』に損害を与えた場合、民法第709条ではなく第415条が適用され、失火責任法上でも適用除外とはならず、入居者は大家さんに対して損害賠償責任を負うことになります。

 

②修理費用保険金

民法上の賠償責任の有無によらず、入居者と大家さん・管理会社の賃貸借契約に基づいて、入居者が自己の費用で修理をしたときに支払われる保険金です。


これは、賃貸借契約上で「入居者が修繕義務を負う」と規定されていれば、入居者への保険金支払いの対象になります。
そのような規定がなく、入居者は修繕義務を負わない契約であれば、修理費に関しては大家さんが自分の保険を使うことになるので、入居者への修理費用保険金は支払い対象外です。

 

「入居者が修繕義務を負う」規定を確認するため、保険会社は保険金支払いの際に賃貸借契約の書面を確認します。
なお、契約の形態は問われないため、親戚との個人契約でも賃貸管理会社との法人契約でもよく、書面についても行政書士などの有資格者が作成する必要はありません。

 

個人賠償責任補償特約とは

日常生活で他人にケガをさせた、他人の物を壊してしまった等により、法律上の損害賠償責任を負った場合に受けられる補償です。


ここで言う法律とは、借家人賠償責任補償特約の①賠償責任保険金でも挙げた民法第709条が主たるもので、不法行為による損害賠償責任を規定しています。
しかし、個人賠償責任補償について保険会社が取り決めている約款では、借りている物については補償の対象外とされています。

そのため、賃貸物件に対して損害を与えてしまった場合に個人賠償責任補償を使うことはできないのです。

 

保険会社によっては、受託品賠償責任補償という特約を付けることで借りた物を補償対象とすることもできます。
ですが、賃貸物件のような不動産や、自動車保険の対象になる自動車やバイクといったものは受託品賠償責任補償の対象外になります。

 

まとめ

『借家人賠償責任補償特約』は、賃貸物件に住んでいて損害賠償責任・原状回復義務・修繕義務が発生したときに使える保険です。
こういった責任や義務が発生しなければ、民法上でも賃貸契約上でも入居者が負担する必要がないということになります。
それなのに、契約がうやむやのまま入居者が修理費などを負担してしまい、いざ保険会社に保険金請求をしたら補償対象外だった、ということもあります。
賃貸物件を契約する際には賃貸契約の内容をよく確認し、入居者が負担する義務があるものについては保険が使えるかどうかも確認するとよいでしょう。


後記
今回は保険の説明より法律的なお話が多く、やや難しい内容になってしまいました。
損保の話題は得意分野ですが、損害賠償責任を性質としているのでどうしても民法に触れることも多いので、行政書士の資格があったら損保募集人としてもFPとしても強みになりそうです。
当面はCFP試験に尽力したいですが、合間の息抜き程度に少しずつでもながら勉強しようかなと思いました。

*1:「しゃっかにん」または「しゃくやにん」と読みます。損保会社や代理店では略して「しゃっかばい」と言っています。