マムFPオフィス -MUM FP Office-

横浜市を中心に活動しているファイナンシャルプランナーです

老後レス社会を提唱するのは誰か:当事者はそれどころではない

FPハム子です。


『老後レス社会』という本を見つけ、タイトルはもちろんコロナ禍を踏まえた内容でもあることに興味を惹かれて購入しました。 

 

 

以前、『悠々自適な老後は望めない生涯現役世代』の記事を書きましたが、この『老後レス』という言葉はまさに言い得て妙です。 

fphamster.hatenablog.jp

 

読んでみての率直な感想ですが、最後の一文(セリフ)があまりにも他人事かつ単なる精神論で、このおかげでせっかく9名もの執筆者・編集者がまとめ上げた一冊を台無しにしており、大変残念に感じました。
なんのことはありません、このセリフを言っているのは老後レスなどとは無縁であろう、銀行研究所出身の大手保険会社勤務の方です。
当事者の置かれた老後レスという社会をマクロ視点で研究はできても、ミクロ視点で精神論抜きで現実的な解決策を考えられるタイプではないように思えました。

 

ところで、私の勤務先では保険業界の新聞を取っており、先日見た記事に下の画像のとおりの精神論コラムがありました。

f:id:cfp2023:20210307231012j:plain


コロナ禍で自殺が増えたというのが端的なテーマですが、最後の段落が完全に他人事で当事者おいてけぼり、『老後レス社会』の最後の一文もほぼこれと同レベルです。
自殺増加の理由も言及していますが、的外れにも程があるひどさです。
学校生活の思い出作りがことごとく潰され、受験も就活も現実味のないバーチャルさながらのオンライン、誰しもが進学や就職を勝ち取れるわけでもなく、コロナ禍で突然目隠しに遭って未来が見えないままの若者に対して「今までと違う自分の発見」はあんまりではないでしょうか。

 

ちなみに、この保険の新聞社はいわゆる業界内の転籍先であって、当然ながら執筆者も老後レスとは無縁の経歴の方ばかりです。
そんな方々が、高齢者の就労率だの若者の自殺率だのマクロ的な数字だけ見て、当事者おいてけぼりの精神論で問題解決に導いた気分になっているのでは、せっかく本を出しても当事者には何も届きません。

 

序章と1~6章からなる『老後レス社会』は、各章それぞれ順序立てたテーマに沿って読みやすく構成されています。
しかし、内容はほとんどがインタビューの文字起こしで、事例と事実を淡々と解説しているに留まっています。
解決策として書かれていることもインタビューで、恵まれた状況の人や会社だったりとうまくいっている事例ばかり、執筆者の意見はほぼなく、当事者が取り得る現実的な策はありません。

 

私はタイトルに惹かれてAmazonで購入しましたが、もし書店で少し立ち読みをして残念な感想を持ったとしても、やはり購入はしていたと思います。
それは、FPとして相談者の背景や経緯を踏まえるのに、マクロ視点では見えない具体的なミクロの事例を把握しておきたかったからです。
おそらくその点で言えば、少し前に話題になった『下流老人』などの藤田孝典さん著書と同じ系列の本だと思います。
(藤田孝典さんの著書は読んだことはないのですが。。。)

 

ですから、事例を知りたいのであれば本書は興味深い内容ですが、老後レス当事者にとっては何の解決にもならないことは間違いありません。
老後レス世代を雇用する側にとっては参考になる点が多いですから、本書のターゲットはやはり当事者ではなく、老後レスを提唱する側だということでしょう。